2013年02月02日

「反対尋問のやり直しを行った事例」 弁護士 小出重義

「反対尋問のやり直しを行った事例 弁護士 小出重義」と題する記事が速記官制度を守る会ニュースbR7に掲載されました。以下、全文転載します。

1.平成24年のある日、次回期日に行われる被告本人尋問の準備をしようと、私は、謄写してあった前回の尋問調書を繰った。

2.前回期日は、私の依頼人の尋問だった。入念な準備とスジのよさから、依頼人は言い分を十分に語ってくれた。読み返してみても、何の問題もない。ただ、なんとなく違和感を覚えながら、被告本人への反対尋問の準備を始めた。

3.記録と、前回の原告本人尋問調書を見較べながら準備を進めるうちに、はたと気がついた。 
 相手方代理人の反対尋問が載っていない!
 反対尋問がなかったのだろうか。
 いや、そんなことはない。相手方代理人が質問した時の口調も覚えている。尋問期日終了後には、依頼人に、「よかった。相手からの質問にもきちんと答えてましたね。100点」と誉めたのも間違いない。

4.私は、裁判所に調査を申し入れた。その結果、分かったのは、次のようなことだった。
 原告本人の尋問は、録音反訳の方法により調書化された。担当書記官が反訳業者に渡す録音データに不足があったために反訳ができていなかった。ところが、担当書記官も、裁判官も、反対尋問以降の反訳ができていない不備に気付かないまま本人調書として完成させてしまった。
 裁判所では、私からの申入れで不備に気付き、改めて本人調書を作成しようと試みた。ところが、私が申入れをした時点では担当書記官が交替しており、交替の祭、手持ちの手控えは書記官が廃棄してしまい、当時の録音データも他の事件の尋問を録音するなどして消去してしまったというのである。

5.その後、この事件の審理では、裁判所の希望を入れて、被告において原告本人尋問を請求した。私も依頼人に事情を説明した上で、やむを得ず、すでに実施された反対尋問のやり直しの限度で尋問の実施に協力することとした。
 再度の原告本人尋問が行われた。
 本来行われた反対尋問において、依頼人は適切に回答し、反対尋問は失敗に終わっていたので、私としては、被告代理人が、これ幸いと新しい尋問事項を持出して、別の弾劾を試みるのではないか、と警戒していた。
 しかし、被告代理人も、再度の反対尋問には気乗りがしない様子であった。当然であろう。
 結局、被告代理人のみが発問した。私には取り立てて追加する質問はなかった。裁判所は、本来の本人尋問の時には補充質問をしたが、この日は発問しなかった。
 その後、最終準備書面を提出して、この事件は終了した。

6.最後に、録音反訳が正しくなされていなかったことについて、裁判所が取った対応について、報告しておきたい。
 私は、本件事故を単なる担当書記官の人為的なミスとして扱うのではなく、裁判の記録を録音データと反訳に頼るという方法について、構造的な欠陥があることを明らかにするべきであるので、裁判所において、本件事故を公表するよう、A地方裁判所の所長に申入れをした。
 しかしながら、裁判所は公表しないと回答した。
 そこで私は、A弁護士会速記録問題対策特別委員会にこの顛末を報告した次第である。
 なお、再度の原告本人尋問のために開廷を待っていた依頼人と私のもとへ、交替前の担当書記官とその上司と名乗る職員が来て、それぞれ謝罪していった。
 しかし、ことは、単なる職員のミスではなく、職員が謝罪して終わりで済まされる問題ではない。ミスは必ず起きる。ミスをした職員を責めるだけでは、この問題の解決にはならない。
 法廷での供述を正確に記録するのは、正しい裁判のための前提条件である。速記官という正確な記録のための専門職員がいて、それに特化した方法(速記録)があるのに、わざわざそれを廃止し、録音反訳をはびこらせている最高裁判所の責任は重大である。以上 (2012年12月5日)




posted by sokkikan at 11:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 今日の記事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:


この記事へのトラックバック
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。